後十字靭帯損傷
後十字靭帯損傷(こうじゅうじじんたいそんしょう)は、膝の関節内にある強固な靭帯が、大きな衝撃によって傷ついてしまう怪我です。膝の靭帯の中でも特に太く強い組織であるため、日常の動作で損傷することは稀ですが、スポーツ中の激しい転倒や交通事故などで膝を強く打ち付けると、膝の安定性が損なわれてしまいます。私たち、ささき整形外科リハビリクリニックでは、膝関節の治療に20年以上携わってきた専門医の視点から、患者さん一人ひとりの膝の状態を正確に評価します。
後十字靭帯損傷の症状について
後十字靭帯を損傷した直後は、膝の裏側に強い痛みを感じることが一般的です。前十字靭帯損傷のように「ブチッ」という断裂音を自覚することは少ないですが、膝全体が腫れたり、関節の中に血がたまったりすることもあります。
受傷から時間が経過して急性期の痛みが落ち着いてくると、以下のような症状が目立つようになります。
- 階段の上り下りや坂道を下る際に、膝がガクッと後ろへ抜けるような不安感がある
- 椅子に座って膝を曲げたとき、脛(すね)の骨が後ろに落ち込んでいるように見える
- スポーツ活動中に踏ん張りがきかない、あるいは加速・減速時に痛みが出る
- 正座をしようとすると膝の裏側に圧迫感や痛みを感じる
後十字靭帯損傷の特徴は、日常生活に支障がない程度の軽い痛みで済んでしまうケースがあることです。しかし、損傷によって膝の関節に後方不安定性(膝が後ろにずれるグラつき)が残ると、膝のクッションである半月板や、関節の表面を覆う軟骨に過度な負担がかかり続けます。これを放置すると、数年後に変形性膝関節症という、膝の変形と痛みを伴う病気に進行するリスクが高まってしまいます。
後十字靭帯損傷の原因について
後十字靭帯は非常に強度の高い靭帯であるため、その損傷には強いエネルギーが加わることが原因となります。臨床現場で多く見られる主な原因には、以下のパターンがあります。
ダッシュボード・インジュアリー
交通事故などで、座席に座った状態で膝を強く打ち付け、脛の骨が強制的に後ろへ押し込まれることで起こる損傷です。車のダッシュボードに膝をぶつける状況からこのように呼ばれています。
スポーツ活動中の転倒
サッカーやラグビー、柔道などで、膝を深く曲げた状態で地面に強く打ち付けた際に発生します。また、ジャンプの着地失敗や、相手選手との激しい接触によって脛の前側に強い衝撃が加わることも原因となります。
過伸展による損傷
膝が本来の可動域を超えて逆方向に強く伸び切ってしまった際(過伸展)にも、後十字靭帯は損傷します。この場合は、他の側副靭帯や前十字靭帯を同時に損傷する複合靭帯損傷となることが多く、重症度が高くなる傾向があります。
後十字靭帯損傷の病気の種類について
後十字靭帯損傷は、損傷の程度や合併症の有無によって、治療の緊急度や方針が大きく異なります。
損傷のグレードによる分類
診察時やストレス撮影(レントゲンで脛を後ろに押して撮影する検査)の結果をもとに、以下の3段階に分類されます。
- グレード1(軽度)・・靭帯が伸びたり、ごく一部が切れたりしている状態で、安定性は比較的保たれている
- グレード2(中等度)・・靭帯の大部分が断裂しており、膝を曲げた状態で脛を後ろに押すと、5ミリメートルから10ミリメートル程度のずれが生じる
- グレード3(重度)・・靭帯が完全に断裂しており、10ミリメートル以上の顕著なずれが見られる。他の靭帯損傷を合併している可能性が高い
単独損傷と複合損傷
後十字靭帯だけが傷ついている「単独損傷」の場合は、保存療法で良好な経過をたどることが多いですが、他の靭帯(前十字靭帯や内側・外側側副靭帯)も一緒に傷ついている「複合損傷」の場合は、膝のグラつきが非常に強くなるため、早期の専門的な介入が必要です。
剥離骨折(はくりこっせつ)
靭帯そのものが切れるのではなく、靭帯が付着している脛の骨の一部が一緒に剥がれてしまうタイプです。この場合は、骨を固定する手術が第一選択となることがあります。
後十字靭帯損傷の治療法について
ささき整形外科リハビリクリニックでは、膝関節の専門的な知見に基づき、手術ありきではなく、患者さんのライフスタイルや目標(スポーツ復帰のレベルなど)に合わせた治療法を提案します。
保存療法(手術をしない治療)
単独損傷の多くは、保存療法で改善を目指せます。急性期には炎症を抑えるための固定や免荷(体重をかけないこと)を行いますが、その後は速やかにリハビリテーションを開始します。後十字靭帯損傷において最も重要なのは、大腿四頭筋(太もも前側の筋肉)の強化です。この筋肉を鍛えることで、膝が後ろにずれるのを筋肉の力で補い、安定性を高めることができます。当院では理学療法士がマンツーマンで、膝のグラつきを最小限に抑えるための適切な運動療法を指導します。
PRP(多血小板血漿)療法
患者さんご自身の血液を採取し、組織を修復する成分である「血小板」を濃縮して膝関節内に注射する方法です。自身の細胞を利用するため副作用が少なく、靭帯の治癒を促進する効果が期待できます。
脂肪由来幹細胞治療
ご自身の脂肪から抽出した幹細胞を培養し、関節内に投与する治療です。損傷した組織の炎症を抑え、環境を整えることで、痛みの改善を目指します。手術に踏み切れない方や、リハビリの効果をさらに高めたい方にとっての選択肢となります。
手術療法(再建術)
グレード3の重度な損傷や、他の靭帯との複合損傷、あるいは長期間の保存療法でも膝の崩れ(ギビングウェイ)が改善しない場合には、手術を検討します。手術は、他の部位の腱を用いて靭帯を作り直す「後十字靭帯再建術」が行われます。
料金について
健康保険が適用される一般的な診療のほか、自由診療については以下の通りです。
| 項目 | 内容 | 費用の目安(税込) |
|---|---|---|
| 保険診療 | 診察・レントゲン・リハビリなど | 3割負担の場合、数千円から(初回) |
| PRP療法 | 自己血を用いた組織修復促進治療 | 150,000円程度 |
| 幹細胞治療 | 自己脂肪由来幹細胞による治療 | 1,000,000円から1,500,000円程度 |
※自由診療の費用は、治療の種類や回数により異なります。詳細については診察時に丁寧にご説明いたします。
後十字靭帯損傷についてのよくある質問
Q1.後十字靭帯損傷は放っておいても治りますか?
A1.断裂した靭帯が元通りに完全に癒着することは難しいですが、軽度であれば周囲の筋肉で補うことができます。しかし、放置すると膝の軟骨がすり減る原因になるため、一度は専門医による評価を受けることをお勧めします。
Q2.スポーツ復帰まではどれくらいの期間が必要ですか?
A2.損傷の程度によりますが、軽度の保存療法であれば3ヶ月から6ヶ月程度が目安となります。手術を行った場合は、競技復帰までに9ヶ月から1年程度のリハビリ期間が必要です。
院長より
後十字靭帯損傷は、前十字靭帯損傷に比べると見逃されやすい疾患ですが、その後の膝の寿命を左右する非常に重要な怪我です。
ささき整形外科リハビリクリニックでは、芦屋市にお住まいの方々やスポーツに励む学生さん、そして膝の不安を抱えながらも手術は避けたいと願うすべての方に寄り添いたいと考えています。
「膝の裏が痛む」「階段が怖い」といった些細な悩みでも構いません。膝関節の専門家として、あなたの痛みを理解し、再び力強く歩み出せるよう全力でサポートいたします。
